南北首脳が高らかに「蜜月」への突入を掲げた2018年4月の「板門店宣言」により設置が合意され、同9月に開所して以降、悪化が続いた2019年下半期においても、南北関係を取り持つ「最後の砦」と言われ続けてきた南北共同連絡事務所。
北朝鮮の開城市にあるこの事務所が、新型コロナウイルスの防疫を理由に閉鎖されたのは1月30日のことだ。これにより、開城市に定住していた58人の韓国側職員全員が撤収した。
当時、連絡事務所の閉鎖を先に持ち出してきたのは北朝鮮側だった。韓国では1月20日に初の新型コロナウイルス感染者が発生しており、27日には韓国政府が感染病危機警報を3段階目の「警戒」に格上げしていた矢先の出来事だった。
それから約2か月が経つ今も、再開の見通しは立っていない。建物の管理は北朝鮮側が行っている。
聯合ニュースによると韓国政府関係者は29日、「連絡事務所の施設・維持管理に韓国側から電力を調達している」と明かした。この関係者はまた、「最小限の電力のみが送られている」とも説明しているという。

現在、南北関係は大きく冷え込んでいることは、日々の統一部の記者会見を見ていてもよく分かる。
南北双方は連絡事務所の閉鎖を受け、日に2度、平壌とソウルをつなぐ直通電話で試験通話を行っているが、これを通じ意味のある協議が行われたという話は、一度も漏れてこない。
北朝鮮側はまた、2月に韓国統一部が送った開城工業団地の再開を持ちかける書簡にも返事をしていない。
一方、首脳間では動きがあったが、これも限定的だ。3月1日、文在寅大統領は「3.1独立運動」記念式の演説で、北朝鮮に対する保健分野での共同協力を呼びかけた。
すると同4日、北朝鮮の金正恩国務委員長は、文在寅大統領に親書を送った。この中で「新型コロナウイルスと闘う韓国の国民に慰労を伝えた」とする一方、「南北同胞の大切な健康が守られることを望む」などと言及したとされるが、その後の動きはやはり何もない。
新型コロナウイルスが全世界に拡散し、北朝鮮も当然その例外であるはずがない中、北朝鮮に人道支援を行おうという機運もまったく高まりを見せていない。
北朝鮮は感染者がいないとしているが、常識的に考えてそんなはずはないにもかかわらずだ。北朝鮮による正確な情報公開が先だという意見には一理あるが、明らかに韓国社会における南北関係改善への意欲が低下している印象だ。
1月の閉鎖時の取り決めでは、南北連絡事務所は新型コロナウイルスの脅威が完全に解消される際に再開されることになっている。だが、新型コロナが南北関係硬直の原因ではなく、関係硬直を正当化するような「言い訳」になっているのが現状だ。