
●韓国にとっては南北和解協力の象徴
20日、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の朝鮮中央通信は、金徳訓(キム・ドクフン)首相が金剛山観光地区の開発事業現場を視察したと報じた。同氏は北朝鮮の経済政策の司令塔とされる人物だ。
同通信は金首相が高城(コソン)港海岸観光地区、海金剛海岸公園地区、体育文化地区などを回り、「名勝地を開発し人民たちの文化・情緒的な要求を最上の水準に充足させることに対する党の構想を、金剛山観光地区総開発計画に正確に反映させ執行することから起きる実務的な問題を討議した」と伝えた。
金首相はさらに、「金剛山地区を現代的で総合的な国際観光文化地区として立派に造成する」とすると述べるとともに「金剛山が人民のために服務する名山、世の中がうらやむ文化休養地(保養地)になるようにする」と語ったとのことだ。
1998年、韓国の故鄭周永(チョン・ジュヨン)現代グループ会長が実現させた金剛山観光は南北和解協力事業の象徴そのものだった。、その後、2008年7月に観光客が北朝鮮兵士によって射殺されたことで中断するまで約200万人が訪れたことから分かる通り、韓国市民にとって北朝鮮に直接行けるまたとない機会だった。
北朝鮮にとっても、山岳観光地である特性を生かし北朝鮮社会への韓国文化の影響を遮断したまま貴重な現金収入を得る場として重宝していたが、今も中断が続いている。
特に17年5月に発足した文在寅政権下で18年の南北・米朝対話が進む中で早期の再開が期待されたが、国連や米国による経済制裁と歩調を合わせる韓国政府が再開の決断を下さず、北朝鮮側にはフラストレーションが溜まっていた。

そして昨年10月、金正恩国務委員長による「爆弾発言」が飛び出した。金委員長は金剛山を視察した際に「一目見ただけで気分が悪くなる古ぼけた南側の施設をすべて撤去せよ」と述べ、韓国側に「施設の完全撤去についての文書協議」を要求した。
韓国政府はその後、「まず直接会って話を」という立場を表明したが、北朝鮮側は昨年12月に「今年2月まで金剛山の南側施設をすべて撤去するよう」要求する通知文を送ってきた。
これに対し韓国政府は「対面協議と老朽化した施設の整備を」と返信していた。沈黙を続けた北朝鮮当局は今年1月30日、新型コロナウイルス伝染の危険を防ごうと金剛山の施設撤去を当分の間延期すると明かし、その後、協議は中断されていた。
北朝鮮は2014年、最高人民会議(国会に相当)を通じ「元山(ウォンサン)・金剛山国際開発地帯」の設置を公表し、海外からの投資も募集してきた。今回の金首相の発言は北朝鮮が来年1月に党大会を控える中、今後の金剛山開発への意気込みを明かした点で注目される。
一方、「南北交流協力の象徴」をどう扱うのか苦心してきた文在寅政権にとっては、本格的な「金剛山観光の終了」になる可能性もあり、しっかりした対応が望まれる。