
●「立法・行政・司法のどこにも属さない独立的な腐敗捜査機構」
「公捜処」とは韓国政府の説明によると、「高位公職者とその家族の犯罪を剔抉(根絶)し、国の透明性と公職社会の信頼度を高めるため、独立した位置から捜査・起訴することができる腐敗捜査機関」を指す。
「公捜処」導入の理由について政府は「権力機関に対する牽制と均衡の基盤のため」とするが、起訴権を独占してきた検察への牽制があることは周知の事実だ。
韓国の検察は強い捜査指揮権に加え、起訴権を独占し「世界一の強さを持つ」とまで表現される。時に権力と結託することでその力を維持してきた検察の力を牽制し削ぐ必要があると、長い間、「公捜処」の導入をめぐる議論が続いてきた。


1996年に市民団体『参与連帯』が初めて提案し、その後、金大中・盧武鉉と続いた進歩派政権で環境整備が続いてきたが、保守野党の反対は根強く、同じ進歩派の文在寅政権になってようやく実現した。
2019年12月に関連法が成立して以降はやはり与野党の対立などで発足が遅れたが、昨年12月に公捜処長の人選における野党の拒否権を認めない法改正を与党が強行したことで、今回の発足にこぎつけた。
なお、韓国では検察と警察の捜査権を調整する法案も成立しており、今年1月1日から施行されている。検察→警察というこれまでの垂直な両機関の関係が、水平なものに改革される。
「公捜処」は「立法・行政・司法のどこにも属さない独立的な腐敗捜査機構」と位置づけられ、権力の牽制を受けずに、権力者の腐敗を捜査・起訴する機関として新たな役割が期待されている。
大統領や大統領秘書室は「公捜処」に業務報告を要求してはならない。そればかりか、指示や意見提示など職務遂行に関わる一切の行為を行ってはいけないと法は定めている。
なお、「公捜処法」が適用される高位公職者とその家族の範囲は以下の通りとなる。
(1)大統領
(2)国会議長および国会議員
(3)大法院長(最高裁長官)および大法官(最高裁裁判官)
(4)憲法裁判所長および憲法裁判官
(5)国務総理と国務総理秘書室に所属する政務職公務員(※政務職公務員とは、選出または任命に国会の同意が必要な公務員を指す。主に次官級以上)
(6)中央選挙監理委員会の政務職公務員
(7)中央行政機関の政務職公務員
(8)大統領秘書室・国家安保室・大統領警護処・国家情報院に所属する3級以上の公務員
(9)国会事務処、国会図書館、国会予算政策処、国会立法調査処の政務職公務員
(10)大法院長秘書室、司法政策研究院、法院公務員教育院、憲法裁判所事務処の政務職公務員
(11)検察総長
(12)特別市長・広域市長・特別自治市長・道知事・特別自治道知事ならびに教育監
(13)判事および検事
(14)警務官以上の警察公務員
(15)将星級の将校
(16)金融監督院長・副院長・監査
(17)監査院・国税庁・公正取引委員会・金融委員会に所属する3級以上の公務員
<家族>は配偶者と直系尊卑属(高位公職者の両親と子女と孫)、大統領の場合は配偶者と4親等以内の親族。
捜査対象となる犯罪は、「法が定める項目に該当する罪」となっているが、正確には「職務に関連する重要犯罪」に限り捜査する。すべての犯罪を扱う訳ではない。
具体的には、刑法上の職務遺棄・職権濫用・不法逮捕・不法監禁、暴行・過酷行為・被疑事実公表・公務上秘密漏洩・選挙妨害・贈収賄・公文書の変・偽造ならびに行使、公電子記録の偽造・改ざん・横領・背任などの他、弁護士法、政治資金法、国家情報院法などの関連犯罪が対象となる。
他の捜査機関の重複が懸念されるが、これについては警察や検察が捜査を行う際、高位公職者の犯罪を認知した場合には即時「公捜処」にこれを通報することと定められている。その後、公捜処長がどの機関で捜査をするのか決めることになる。

●「第一号」の捜査対象に集まる注目
21日、文在寅大統領により任命された金鎭煜処長の任期は3年だ。
文大統領は任命式後、金処長に対し「初めて発足する公捜処だからこそ、一歩一歩国民の信頼を得ることが重要だ」とし、「法に適った手続きと人権親和的な捜査の見本を見せれば、国民の心理を得られる」と述べた。
また、「これからは『公捜処』と検察・警察の捜査の力量を合わせたものが、韓国全体の捜査の力量となる」とし、「検察・警察との協力がとても重要だ。『公捜処』に対する期待が大きい」と語った。
他方、金処長はこの日の午後に行われた就任式で、「歴史的な課題である『公捜処』の成功的な定着という、時代の要請の前に大きな責任感を感じる」と明かした。
金処長は会見で34回も「国民」という単語を使った上で、「与党の側でも野党の側でもない、ひたすら国民の側に立つ」と決意を述べた。
さらに、「捜査の公正性と政治的中立性、独立性が渾然一体となってこそ前に進める」とし、「政権を死守する機関になるとは思わない」と強調した。
これは「公捜処」が時の政権にとって、政敵を除去する目的で恣意的に運用されるのではないかという懸念に対する反論だ。
また、検察や警察という既存の捜査機関と衝突することになるのではという憂慮に対しては、「公捜処と検察・警察が協力する点は協力し、牽制する点は牽制するならば、善意の競争を行う相生(共生)関係になると確信する」と述べた。
一方で、「公捜処」がどんな事件を「第一号事件」として扱うのかにも韓国社会の注目が集まっている。一角では昨年来、文政権の法務部と対立を深め、検察改革の「抵抗勢力」と見なされている尹錫悦(ユン・ソギョル)検察総長がその対象になるとの予想もある
これについて金処長は「人事における公募と書類審査、面接、人事委員会などを経ると少なくとも二か月はかかる」と今後を見通し、「その時に(対象を)決める」と回答を避けた。
「公捜処」の人員は処長1人、次長1人、検事23人、捜査官40人、行政担当職員20人の計85人と関連法で定められている。金処長は検事については「(検察庁から)現職の検事の派遣は受けない」ことを明らかにしている。