
●政治的な自由への言及なし
韓国外交部の崔鍾文(チェ・ジョンムン)第2次官は23日午後(現地時間)、オンラインで開催された「第46次国連人権理事会」高官級会期で、基調演説を行った。
演説で崔次官は、新型コロナウイルス感染症の拡散により、全世界的に経済・社会的な不平等や憎悪、差別などの問題が悪化している点を指摘しながら、人権と民主的な原則に基づく新型コロナへの対応が必要である点を強調した。
具体的には、新型コロナワクチンや治療薬に対する公平なアクセスに言及すると共に、今年6月に予定されている国連人権理事会で韓国が主導する「新技術と人権」の決議案に対する各国の支持を求めた。
また、崔次官は「韓国政府が北朝鮮の人権状況に対し、深い関心と憂慮を持ち、国際社会との協力の下で北朝鮮住民の実質的な人権増進のために努力している」と説明した。
続いて北朝鮮の人道的な状況悪化について憂慮を示し、この点への関心を続けて持つことを強調した。特に、北朝鮮に対し、最も緊急な人道的・人権問題の一つである南北離散家族問題の解決のために、韓国がこれまで送り続けている要請に応えてくれるように求めた。
このような北朝鮮人権問題への言及は一見説得力があるが、北朝鮮人権問題の本質を捉えているとは言いがたい。自由権、つまり言論、結社、思想信条の自由など政治的な権利について言及していないからだ。
そして、この論法こそが文在寅政権が北朝鮮人権問題に言及する際の特徴だ。政治的な自由を二の次にして、人道支援や離散家族再会といった課題を別途提示することで「北朝鮮住民には自由がない」という最大の問題を直視しない姿勢をとり続けてきた。
背景には、政治的な抑圧を指摘することによって金正恩委員長の心証を損ね、南北対話や朝鮮半島平和プロセスの動きが途切れることを憂慮するという事情があるのだろう。
ただ、この日の崔次官の演説には、「民主主義に対するミャンマーの国民たちの熱望を尊重する点を再確認し、合法的で民主的な手続きに従い、平和的な方式で問題が解決されることを期待する」と、軍部がクーデターを起こしたミャンマーへの言及があった。
同様の視点を北朝鮮に対しても持つべきではないだろうかという問題提起は、充分に可能だ。
もっとも、この日の北朝鮮人権問題への言及は、北朝鮮よりも今回から3年ぶりに国連人権理事会に復帰した米国の視線を意識したものと見るのが妥当だ。バイデン政権は人権外交を外交政策の基調の一つとしているからだ。
なお、韓国メディアは過去5年間と異なり、韓国政府が鄭義溶(チョン・ウィヨン)長官ではなく次官を派遣したことを問題視している。外交部側は「就任から間もないため」と説明しているが、文政権が北朝鮮や中国などを最大限刺激しない方法を採ったとする見方が強い。